サンリオピューロランドでキャラグリというものをした話

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東京都写真美術館「風景論以後」展を見に行こうとと約束していた友人Mから、前日になって「気分じゃないかも」とラインが来た。嫌なことがあったらしい。「散歩?」「そうね…」「郊外に買い物しに行く?」「うーん…」この時点でなんとなく「サンリオピューロランドじゃないか?」とは思っていた。しばらくやり取りを続けたのち、友人が「サンリオピューロランドとか…動物園とか…水族館がいいな…」と言った。「ピューロランドじゃないかなって考えてた」「ピューロランド行きたい」こうして我々はサンリオピューロランドへ行くことになった。

 


友人Mと一緒にピューロランドへ行ったのは、数年前、一度きりだ。ボートライドとマイメロドライブに2回ずつ乗り、キャンディファクトリーなどのキッチュなエリアを見て回って、ショーやグリーティングはノータッチだった。キャラクターと写真を撮影した記憶もない。

今回は、友人の心を癒すというミッションがある。前回と同じプランでは成功しないと思った私は、サンリオピューロランドの紹介記事を読み、夜中の2時まで傾向と対策を練った。

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当日朝ー

多摩センター駅は清々しい。駅から続くペデストリアンデッキによって、商業施設やピューロランド、公園まで導線が繋がっている。9時半の駅前には、ピューロランドに向かう人、通勤の人のほかに、デッキのベンチに腰掛けてお喋りする人もチラホラと見受けられる。そう、清々しさの理由はペデストリアンデッキが広いがゆえに広場としての効能を持っていることだ。広場にはオールドな雰囲気のイトーヨーカドーもあり、「丘の上」という冠もついている。爽やかなことこの上ない。

 


デッキ奥にデンとそびえるピューロランドまでよちよち歩いていく。半円状のお城の外観はいつ見ても素敵だ。遠くに虹が出ているのを見て嬉しいのと同じかもしれない。

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入場してすぐコインロッカーへと向かう。友人Mも私もデカいリュックを背負いがちなので邪魔なのだ。どの位置のロッカーにしまうか揉めていると、素敵な壁画を発見した。

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そっけない蛍光灯の明かりと、創業当時からあるのかな?と想像させるレトロな絵柄が相まって強く郷愁を感じさせられる。子どもの頃のサンリオってこんな感じだったよな〜と懐かしくなった。そしてこの絵が残されていることに感謝した。

 


館内はそこそこ混んでいた。平日だが親子連れが詰めかけている。元気のない友人Mはキャラグリレジデンス(「キャラグリレジデンスってすごい名前だね」)のパス発券が長蛇の列になっているのを見て絶句していたが、エイヤと並ぶことした。

友人Mも私も、サンリオの熱心なファンではない。友人Mはバッドばつ丸、私はハンギョドンをなんとなく好ましく思っている程度だ。

グリーティングの相手として選んだバッドばつ丸のキャラグリの時間になり、我々は待機列に並んだ。周りはキャラクターのぬいぐるみやカチューシャを装備して慣れた様子である。一方私たちはサンリオはおろかディズニーのキャラグリもしたことがなく、着ぐるみを前にするとぎこちない笑顔でそそくさと離れていくタイプ。でも今日は心を癒すのだ。だから勇気を出してキャラグリする。

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我々の番になった。

写真を何枚撮っていいのかなどもよくわからないため、係のお姉さんにスマホ一台を渡すだけにしておく。自宅?に設置されたステージで、ばつ丸は待っていた。

ハイタッチした友人Mが「ふわふわだ!」と小さく叫ぶ。私もハイタッチして、「ばつ丸、ふわふわだ!」と独り言を言うと、ばつ丸がこちらを向いた。両ほっぺに手を当てて動かしている。可愛い。不意打ちの可愛い動作。脳みそが停止してジェスチャーの意図を汲めず、「え?!なに?!かわいい!」と言うしかない。ばつ丸の背後から友人Mの「なになに?!なにが起こってる?」という声が聞こえる。ばつ丸はその声に反応してくるりと振り返り、友人Mにメンチを切っていた。睨まれて喜ぶ友人M。

腕を組むポーズで写真を撮り、ハグをして、キャラグリは一瞬で終わった。帰り際にばつ丸が手を振ってくれる。

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友人Mに「なにが起こってたの?」と訊ねられる。「なんか…顔のところでこう、手を動かしてた」「ふわふわだ!って言葉に反応してふわふわを表現してくれてたんじゃない?」「あー!」そういうことか!察しが悪い私の脳内に電気が走った。

ばつ丸は私の発した言葉に対して、ジェスチャーを返してくれていたのである。私の発した言葉は独り言ではなかった。コミュニケーション。グリーティングとは、会話のキャッチボールの場だったのだ。相対したとき感じた可愛さに、嬉しさが加わる。これか!と思った。これがグリーティングの魅力か。

 


友人Mと私はミラクルギフトパレードを見て、ランチやおやつをたらふく食べ、カワイイカブキを見て、ばつ丸アニメーションも見て、お土産を買って、ボートライドに乗るのはまた今度だねと話して帰った。友人Mがミラクルギフトパレードを見て泣いたり(「いちごの王様のことを考えて泣いちゃったよ…悪い奴を倒さないんだよ?すごいよ…カワイイフェスティバルもいい曲すぎて…略」)、普段食べない唐揚げを2回も食べて胃がもたれたりと楽しい一日であった。友人Mの心も復活した。

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私はといえば、ずっとキャラグリのばつ丸のことを考えていた。退館まぎわ、自分用のお土産にばつ丸のぬいぐるみを探す。ふわふわのやつがいい。ばつ丸の思い出を留めておくための装置としてのぬいぐるみだから、記憶のトリガーとしてふわふわしていた方がいい。

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家に帰ってきて、ばつ丸のぬいぐるみは机の上に置いた。なんとなく触ってみると、ふわふわしていて、やっぱりキャラグリの思い出が蘇る。「お土産」というものの記憶装置としての役割を改めて確認した日であった。

次に行くときにも、ばつ丸とハイタッチできたらいいなと思う。